ホールケーキを3人で食べることになった。
大喧嘩になった過去があるので、誰もナイフを持ちたがらない。
なんで3つ買ってこないんだ!と父親に怒鳴っているのが兄。
父親に視線が向いた瞬間に指で箱についている生クリームをペロッといったのが弟。
どう均等に切って分けるのかを真剣に考えているのは私だけで、考えがまとまらないうちに兄が私にナイフをぐって突きつける。
きっかり3当分にしろよ、と目が言っている。
兄も喧嘩をしたいわけではないんだ。
ケーキを半分にするのは難しくない。が、三等分は難しい。弟が横に三等分はどうだ?と口を挟み、最上面の生クリームがたっぷり乗ったところを誰が取るんだと一瞬ざわっしたが、兄が弟の頭を小突き、ケンカのタネをわざわざ作る提案をするんじゃない。と睨んだ。
前回、ケーキの取り合いは争いに発展し、滅多に怒らない父親が怒り、3人ともケーキなしという最悪の結果を招いた。奪い合うと誰もいい思いをしないということを前回のケーキ事件で私たちは学んでいた。
私は父親に聞いた。きっかり三等分にどうやって切ったらいい?
父親はこういう考え方もあると言いながら私の手からナイフをとって6等分に雑に切った。
なんで6つ?と思うまもなく、兄と弟がその一つを指差して同時に「これ俺!!」と言って緊張感が走った。
瞬時に一番大きなものがわかるほど父親の六等分は雑だった。
私は父親の顔を見た。父親はナイフを置きながら、今から順番に一つずつ1人2回取るようにする。但し順番は1番目と6番目、2番目と5番目、3番目と4番目の順番で取ること、というルールにすると言った。
そして3人でルール通りにケーキを2個ずつ取った。
いつもならやっぱりこっちの方が大きいとか、いちごが乗ってるのがずるいとか、そういう不満が出るのだがそういう不満が全く出ずに、食べ終わった。
食べ終わった私たちに向かって父親は平等にケーキを切るのは難しいけど、平等なルールは作れるんだなあ、と言ってニヤリとした。父親のドヤ顔を見て普段ならイラっとするけど、私はなんともいえない気持ちになって父親をバンバン叩いた。